東京女子医科大学医学部 放射線医学講座 放射線腫瘍学分野

放射線治療について

肺がんの放射線治療

 転移のない早期の非小細胞肺がんでは、定位放射線治療の適応を検討します。「定位放射線治療」の項をご覧ください。

 進行期で転移のない非小細胞肺がんでは、抗がん剤を併用した放射線治療の適応を検討します。治療期間は約6週間です。

 転移のない小細胞肺がんでは、抗がん剤を併用した1日2回の放射線治療の適応を検討します。治療期間は約3週間です。

 副作用については、「放射線治療の影響と対策」をご覧ください。

はじめに

肺がんは、組織型によって大きく「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」の2つに分類されます。どちらの肺がんであるかによって、手術や抗がん剤を含めた全体的な治療方針は大きく異なります。しかしいずれの肺がんに対しても、放射線治療は治療戦略の上で大きな役割を果たしています。治療方針の概要は下記ごとくとなりますが、実際には個々の患者さんの病状や状況、治療方針により、最適な放射線の計画をおこない、放射線治療の方法を決定し治療していきます。

根治目的での放射線治療

Ⅰ. 非小細胞肺がん

臨床病期I〜Ⅱ期で手術を希望されない方、高齢、肺の障害や心臓などの状態により手術が困難な方、Ⅲ期で手術困難な方に対して、「根治的治療」(がんを治すための治療)をおこないます。

1)早期肺がん

 病変が肺の中に限局しており、他の場所やリンパ節に転移がなく、周囲に大きな血管や太い気管支がない場合などには、病巣を多方向からねらい打ちする「体幹部定位放射線治療」(いわゆるピンポイント照射)という方法が有効です。この治療の特徴は①病変に放射線を正確に集中させて1回に多くの放射線を照射することによりがんを制御する確率が高くなること、②周囲の正常な組織への影響が少ないこと、③治療回数が4~8回程度と通常の放射線治療に比べ少なく短期間で治療できること、です。当院では1回10.5グレイ、4回の総線量42グレイの定位放射線治療を中心におこなっています。

 放射線をピンポイントで照射するためには、毎回の治療直前に病巣の位置を画像上確認して治療をおこなうことが必要です。当院では治療室内にCTがあり、同じ寝台でCT撮影と放射線治療が行える装置を有しておりますので、毎回CTで位置を正確に確認した上で、放射線治療が可能です。

2)局所進行肺がん

 腫瘍が肺の内部~肺の周囲の組織、胸部のリンパ節の範囲内にあり、病変の位置や範囲・肺や心臓など合併する疾患や年齢により手術の適応になりにくい場合が放射線治療の対象となります。 臨床病期Ⅱ〜Ⅲ期では、通常抗がん剤との同時併用で放射線治療をおこないます。高齢の方や合併症をお持ちのために抗がん剤の併用が困難な方は、放射線治療のみで治療をおこなうこともあります。通常は、1日1回2グレイで週5回、総線量60グレイ/30回(約6週間)程度の照射を行います。正常組織に照射される範囲や線量を下げて副作用をなるべく少なくするために、強度変調回転照射法(VMAT)あるいは3次元原体照射法という方法を用いて治療をおこなっています。

≪局所進行肺がんの放射線治療例≫ 

Ⅱ.小細胞肺がん
限局型の小細胞肺がんでは、抗がん剤を併用して放射線治療をおこないます。照射範囲が比較的小さい場合には、1回1.5グレイ、1日2回、週5回、総線量45グレイ/30回(約3週間)の治療法が推奨されています。病気の大きさや場所により照射範囲が広くなる場合には、抗がん剤治療で腫瘍を縮小させた後に放射線治療をおこないます。
またこれらの治療により腫瘍が消失または著しく縮小した患者さんには、予防的全脳照射により脳転移を予防することが推奨されています。

症状緩和目的の放射線治療

肺がんが高度に進行している場合や、他の場所に転移した場合には、治療の中心は抗がん剤治療となります。ただし気管や大血管、食道などが腫瘍により圧迫されたり、骨や神経に浸潤して強い痛みが生じた場合、骨や脳に転移した場合などでは、症状をやわらげるために放射線治療が有効な場合があります。治療方法や回数は治療部位や病気の状態によって異なります。骨転移に対しては1回3グレイで総線量30グレイ/10回(2週間)の治療を基本としていますが、全身のご状態により1回8グレイ、1回のみの治療など、より少ない回数での治療も可能です。 脳転移に対しては1回2.5~3グレイ、10~15回程度の治療をおこないます。


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